ファンアートの想いと初演時の作家の想い

今回、はじめてSPIRAL MOONに出演します、こんのかつゆき(劇団コピュラ)です。

演劇はお祭り、パーティーであるとともに、不確かな、まだ言葉にしきれない想いに、祈りを捧げる儀式でもあります。

キネカメモリアの13年前(2011年)の初演の際、作家の横田雄紀さんは以下のように書いておられました。
過去サイトが見れなくなったので、ここに全文を引用します。

一休禅師の歌に「世の中は食うて糞して寝て起きて、さて、その後は、死ぬるばかりよ」というのがあります。一つの悟りの境地を表したものだといわれているようです。まぁ人生というものは突き詰めればそれだけのことかもしれません。この歌をちょっと読めばおわかりのように、この人生には愛するという営為が欠けています。きっと悟りのためには愛は不要なのでしょう。なぜなら愛は悟りにとって、死を前に迷いを呼ぶ障害でしかないのですから。演出家の秋葉さんは公演の1年以上前に今回の台本を僕に依頼しました。そして僕はこの台本を書きあげるのに1年以上かかりました。最初の半年は持ち前の怠惰によるものでした。公演の半年以上前に台本が出来上がっていたら御の字でしょとたかをくくっていました。そして半年が過ぎ、そろそろ馬力をかけるか、と思った時に3月11日を迎えました。それから半年が過ぎるまで書き上げられなかった理由は、迷いでした。あの未曾有の大災害を前に果たしてお芝居なんかやっていていいのか、何よりも頭ででっち上げた筋書きが、この恐ろしい惨劇を前に意味を持つことができるのか。それは僕だけでなく、演劇という表現に関わる人間は誰しも似たような思いを抱いたのではないでしょうか。その思いは、正直に言って今でもあります。ただ僕がこの台本を何とか書き上げることができたのは、震災後しばらくしてから伝えられたあるニュースに触れたからでした。震災後、結婚する人が増えている。千年に一度の震災と津波、それに続く原発事故というかつて経験したことのない不安の中で、それでも男と女は(あるいは同性同士でも)お互いの存在を必要としている。愛などなければ、死ぬことも恐れることなく、泰然と人生を過ごすことができる。しかしそれでも人は迷うことを選ぶ。この台本の構成は当初の構想と少し(かなり)ずれてしまいました。もしかすると物語として整合性を失っているかもしれません。それは今でも僕の中に根を張り続ける迷いを反映したものでしょう。といいつつも、ここまで書いてきたことは台本の質があまり良くないことの責任を大震災に押し付けただけの与太話かもしれません。それはお客様自身の目で確かめてくださいますようお願い申し上げます。

※「キネカメモリア(2011年版)」サイトからサルベージして引用しました。

作家・横田さんの想いを形にして世に放たれたのが前作の「キネカメモリア」です。ほぼ当時と同様の骨子のもと、作家の全面的な許可を得て、2024年の今の価値観とのバランスを取りながら、稽古場で、演出と役者が細かな協議を重ねて改善し、立体的に立ち上げを行っています。

当時の作家さんと同じく、やはり、我々も迷い続けています。
どうして「このセリフ、このト書き」なのか。
文字から受け取る情報を、声と身体を使って立ち上げる際に、役の心情や思考、過去の背景文脈を、本には描かれていないその隙間を、いかにして掬い上げて芝居に昇華するか。

その場にいられるための「芯」を見つけていく作業をしています。

「キネカメモリア」の中に秘められた「まだ言葉にしきれない想い」、みなさんに届きますよう、座組一同、最後の稽古週を精一杯、足掻きます。
応援、よろしくお願いいたします。

こんのかつゆき(劇団コピュラ)

☆公演情報はこちら☆

SPIRAL MOON the 48th session 『キネカメモリア』
【作】横田雄紀 【演出】秋葉舞滝子
潰れかけた映画館で繰り広げられる、諦めた大人の諦められない夢の欠片の物語。
開演ブザーとともに、今、始まります。
【出演】最上桂子、河嶋政規、佐藤希洋(劇団ひまわり)、菅野奈都美、あい、出口綾夏、こんのかつゆき(劇団コピュラ)、城戸啓佑、秋葉舞滝子
【日時】2024年6月19(水)~23日(日) 上演時間は約90分、途中休憩なし。
【場所】下北沢「劇」小劇場
【料金】日時指定 自由席 前売・当日:4,000円
【ご予約】
SPIRAL MOON https://spiralmoon.jp/session-48
☆CoRichチケット https://ticket.corich.jp/apply/316694/

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