『手を伸ばした先にあるもの』
初日あけて、2日目の昼公演の時でした。
昼間出番のない私は、受付の手伝いでロビーにいてお客様をお迎えしていました。すると1人の男性が、杖をつきながら辿々しい足取りでゆっくりとロビーに入って来たのです。
「いらっしゃいませ…」と言いかけた瞬間、私は「あっ…!!!」と声を上げてしまいました。
何とその人は、去年、仕事先で倒れてICUに運ばれたという話を聞いたきり、生きているのかさえ分からなかった役者友達のM君だったのです。
奇跡的に生還した彼はリハビリを経て、最近やっと何とか杖をつけば歩ける様になったのだとか。
まだまだ両手も思うようには動かせず言葉もゆっくりしか話せませんが、こうして外に出ることが可能になった彼は、まず、小劇場の芝居を観たくて、公演情報を調べ、やって来たらしいのです。
私はこの事が…
言葉で説明することはできないのですが…
物凄く心に突き刺さって、書いてる今でも涙が出てきます。
死にかけて生還した人間がやっと何とか動けるようになった時に、まず、小劇場の芝居を求めた…という…
彼はニコニコしながら「面白かった」と言って、満足した表情でまた、ゆっくりゆっくり杖をつきながら帰って行きました。
ずーっとずーっと、この事が頭から離れないでいます。
言葉では説明できない『感覚』として、多分これからも、この事実はずっとわたしの心に漂い続けるでしょう。
コロナ禍の中、劇場に足を運んでくださいましたお客様、応援してくださった方々、劇場関係者の皆さま、スタッフの皆さま、
そして…素晴らしい共演者たち、
本当に本当にありがとうございました。
柔らかく、
あったかい、
大切な、
宝物のような時間になりました。
何処かで、また…
石井 悦子